映画サロン vol.88 「心と体と」 (ネタバレ注意)

画像久しぶりに塩尻の東座、フロムイースト上映会です。

今回の作品は、ハンガリーのラブストーリー。監督は63歳の女性監督、イルディコー・エニェディ。映画館をひとりできりもりしている、合木こずえさんの前説がいいですね。毎回思いますが、本当に映画が好きな人なんだなぁ。前説の後、映写室に行って、照明を落としてフィルムを回す・・・・・いいですね。
















画像ヨーロッパの秀作(と、彼女が思って選んだ作品をチョイスして上映してると思います)が多く、数回観に来た私も、もうこの塩尻の東座に来ると、何かヨーロッパの片田舎の映画館に来たような、この古い昭和の映画館がそんな印象をもたらすのです。

映画を上映している間は、フランスだったり、イタリアだったり、ハンガリーだったり・・・・・その空間になるわけですから。そういえば、小・中学生の頃はよく高松の映画館でアメリカ映画を観ていたので、高松の映画館はアメリカの印象がありましたね。

その現実とのギャップを楽しむのも映画の楽しみ方のひとつかもしれません。合木さんの話によると、この作品の主人公マーリアは、とても内気で、人とのコミュニケーションがうまくとれない女性。監督自身そうであったので、主人公のしぐさや考え方を細かく再現していると言ってましたが、そういう映画を作りたかったのかもしれませんね。

舞台はハンガリーの郊外にある食肉加工工場。牛を屠殺して、食肉に解体する工場。たしか・・・・松本にもありますね。ラーラ松本の裏の方です。機械に歩みを進めた牛が、瞬間的に命を奪われて(どうやって殺しているのか・・・電気ショックか何かかなぁ)あとは、流れ作業的に死んだ牛の両足を吊り上げて、頭を切って・・・・・ここの映像も見せ方がうまくて、逆光であまり鮮明には見えないけれど、何をやってるのかはわかるような映像で・・・・最後にドーンと切り落とされた頭の断面、首の部分ですね。ここが出てくる・・・・・これがなぜかグロいんですが、美しく感じるんですよねぇ。見せ方ですよねぇ。

あとは皮を剥いだり、前脚を切断したり・・・・・まぁ、痛々しい光景が続きますが、よく考えると普段、自分たちが何気なく食べている牛肉は、こういう加工処理をしてできた牛肉、豚肉、鶏肉なので・・・・最初から切り身になってパックされた肉が出てくるわけではないんですよ。動物の命をいただいて、私たち人間が命をつないでいる・・・・改めてそう感じましたね。監督がなぜ、主人公の職場に食肉加工場を選んだのか・・・・・人とのコミュニケーションがうまくとれないマーリアのピュアな心と対照的に、血しぶきが飛び散り、牛を解体する・・・・そういう作業を黙々と繰り返す日常。この対比でさらにピュアさが浮き彫りになるんでしょうねぇ。

その食肉加工工場の日常とはまったく違う、雪が舞う森の中をさまよう二匹の鹿が登場します。これもどうやって撮ったんでしょうね。ほんとにオスとメスの鹿が、何かを話しているんじゃないかというような表情をします。この監督のカットがセンスよくて素晴らしい。美しいです。鹿や森のカットだけでなく、食肉加工工場での風景の切り取り方が美しい。

最初はこの鹿のシーンが何を表すのかわかりません・・・・主人公マーリアは、食肉加工工場に臨時で配属された30歳くらいの品質検査官です。財務部長のエンドレは、立場上、職場になじませるためにランチの時にコミュニケーションを取ろうとしますが、全く会話が噛み合いません。職場でも同じで、誰とも口を聞かず、黙々と食肉の等級を判定する仕事に没頭します。

そんな中、工場で牛に使う「発情剤」が盗まれる事件が発生します。工場できちんと管理されるべき薬なのでしょう。警察沙汰となってしまい、工場関係者が全員カウンセリングを受けることとなりました。マーリアとエンドレももちろん受けましたが、その中で昨日、どんな夢を見たかの質問に対し、2人が「鹿になって森の中をさまよった」と答えます。

そう、鹿のシーンは、2人の夢のシーンだったのです。まったく同じ夢を同時に2人が見る・・・・カウンセラーは、2人が口裏を合わせてバカにしていると思い込みましたが、その事実を知った2人は、急速に距離が縮まります。まぁ、ここからはちょっと現実味がなくなってくるので、少し拒絶感がありましたが・・・毎日、2人が同じ夢を見て、鹿になって夢で会うことができる。これスタートレックボイジャーの、セブンオブナインがアルコーヴで再生している時に、他人とつながるユニマトリックスゼロと同じシチュエーションです。

エンドレは60歳ぐらい、右腕が動かない不自由があり、独身。大人になった娘がたまに訪ねてくる。夜中にエッチしてたのは別れた元カミさんか?恋人か?そんなエンドレですが、30歳のマーリアに興味を持ち始め・・・・しかし、マーリアは人とコミュニケーションがうまくできない。子供の頃からカウンセリングを受けていたようで、今回もカウンセラーにどうすればいいか相談する。

また、マーリアはずば抜けた記憶力があり、ありとあらゆる日付を克明に記憶している。エンドレとの会話も何回めの会話はこうだったと言えるほどである。夢の話をするうちに、どんどんエンドレもマーリアに惹かれ始め、「夢の中では私を怖がらなくていい」・・・とマーリアに話、その翌日エンドレが「実に素晴らしかった」と満足げな顔でマーリアに話したのは・・・・交尾をしたということでしょう。すっかりその気になってしまったエンドレは、マーリアに電話番号を書いたメモを渡し、マーリアの電話番号を聞こうとしたところ「携帯を持ってない」と言われ、エンドレは拒絶されたと思いがっかりします。

その時の恨み節で「色恋をあきらめて数年になる。そんなのがない方が楽だ。普段の生活も不便はない。どうかしてた。」この言い方・・・・・俺じゃないか?(笑)まぁ、この瞬間からこの片腕不自由なおじさんエンドレに親近感を感じましてね。でも実はマーリアは本当に携帯を持ってなかったんですね。マーリアは携帯を買って・・・・エンドレに電話をかけて・・・・

こうなるともう、おじさんは舞い上がってしまいますから・・・・すっかりその気になったエンドレは、マーリアの腕に触れ、そこでマーリアは拒絶してしまう。他人に身体を触られたくないというマーリアは、エンドレの想いにうまくこたえられず・・・・ここでもすれちがってしまう。エンドレもどうしていいか困惑する中・・・・マーリアも思い悩み・・・バスタブで手首を切り、自殺を図る・・・・そこへエンドレからの電話。

「愛しています。」

この言葉でマーリアは思いとどまり、血が流れる手首を縛って、病院へ行って・・・・エンドレの部屋で結ばれる・・・・・またこのエッチのシーンがリアルで・・・・・60歳のおじさんの動きと息遣いが・・・・恥ずかしい。二人で鹿になったのでしょうか。

朝、二人でパンを食べているシーン。エンドレがパンをちぎったパンくずがテーブルの上に落ちる。マーリアは潔癖症なので、それが気になって仕方がない。パンくずをきれいにして・・・・エンドレと目があってニコッと笑う。ハッピーエンドですね。

主人公のマーリアを演じるアレクサンドラ・ボルベーイ。美人・・・とも言い難いですが、普通なマーリアをうまく演じています。特に表情とか、視線とか・・・・精神的に問題を抱えている女性のしぐさをうまく表現している。監督の指導なんでしょうね。私の下の(先日亡くなったのは上の妹ね)妹が統合失調症ですが、その妹のしぐさに似ています。うまい。雰囲気も下の妹に似てる。

相手のエンドレ役のゲーザ・モルチャーニが、今回の芝居が初めてというのがびっくりです。ものすごいベテラン俳優かと思いました。翻訳家で編集者の人が、どうしてこんなに演技ができたのか。すごいですね。

総合評価は85点。なかなか面白かったです。残念なのはやはり二人が毎日同じ夢を見るという設定ですかね。

映画 「心と体と」 公式サイト

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また面白い映画を観に来ましょう。

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